日本介護システム株式会社で、訪問理美容師を育てる研修トレーナーをしております、東岡と申します。前回の「入門編」では、活動に必要な国家資格に始まり、基本的な法律や衛生管理、何よりも大切な「お客様の心に寄り添う力」についてもお伝えしました。
今回はさらに踏み込んだ「上級編」をお届けします。
現場で直面する複雑な状況にどう対応するか?医療や介護の専門職とどう連携していくか?
美容がもたらす本質的な価値についても深く掘り下げていきます。単に「髪を切る」という枠を超えたプロとしての知識と心構えをお伝えします。
お客様の人生の質(QOL)を高める存在を一緒に目指しましょう。

訪問理美容の現場では、認知症のお客様を担当する機会がとても多いです。認知症の方は、環境の変化に強い不安を抱きやすいです。見知らぬ人に対して混乱することもあります。時には施術を拒否されることもあります。落ち着きがなくなることも少なくありません。
上級の訪問理美容師に求められるのは、手早くカットを済ませることではありません。お客様の不安を取り除くことが大切です。安心感を与えるコミュニケーション技術が必要です。たとえば、声をかけながら横からゆっくり近づきましょう。いきなり横に着くと不信感を抱き、耳のシャッターを閉じてしまいます。施術中に優しく触れる「タクティールケア (タクティール=ラテン語で「触れる」を意味し、認知症患者やがん患者に優しく触れる事で、不安や痛みを和らげる効果とコミュニケーション効果を期待され、現在では知的、精神的、身体的障がい、難治性疾患など多くの現場で活用されるケア手法)」の要素を取り入れることも、おすすめです。
美容の力は、認知症の方の心にポジティブな変化をもたらす可能性は、複数の研究で報告されています。髪がきれいに整うと、表情が明るくなります。お化粧をすると、周囲との会話が増えることも珍しくありません。
公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」(2023年更新)でも、こうした効果が示されています。高齢者にとって美容を楽しむことは、QOLを高める効果があります。自信や幸福感が高まります。うつ感情や不安感情が和らぐという研究結果もあります。
引用元:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」「高齢社会における美容の役割」(令和3年)
https://www.tyojyu.or.jp/NET/kenkou-tyoju/tyojyu-biyo/koreishaka-biyo-yakuwari.html
介護施設での施術において、施設の担当スタッフの方が常にそばに付き添ってくださるわけではありません。ですので、事前の確認がとても大切になります。
基本的には施術前にお名前の確認や、ご希望のスタイルについては、ご本人が伝えることができるかを施設様に確認、又はご家族からのご要望などはあるか?の確認を行います。
さらに、上級の訪問理美容師は、施術中にお客様の様子をよく観察します。顔色、呼吸、姿勢の傾きなどがポイントです。「少しお疲れかもしれない」と感じたら、すぐさまスタッフに声をかけましょう。何か緊急事態があればすぐに施設内のスタッフに確認し、自分たちだけで判断しないことが大切です。介護のプロと連携することが、最大の安全管理となります。
厚生労働省「理容・美容のページ」(令和8年更新)では、衛生管理の基準を定めています。安全で衛生的なサービスをおこなうための基準を守ることは、プロとしての義務です。
引用元:厚生労働省「理容・美容のページ」(令和8年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123853.html
最高の技術を持ちながらも、安全に関しては施設スタッフを信頼して頼ること。このバランス感覚こそが、施設から長く愛され信頼される条件と言えます。

訪問理美容の技術的な最難関が、ベッド上で寝たきりのお客様への施術です。いかに安全に、かつ美しく仕上げるかが腕の見せどころとなります。
ベッド上でのカットや洗髪では、まずは施術を行いやすく、スムーズな導線を確保することが大切です。点滴や呼吸器などの医療器具、足元にあるコード等の位置確認を行います。
また、ご利用者様の普段使う道具類の位置を変えてしまわないよう、施術前に物の位置の写真を撮る(ご同意を取った上)のも良いでしょう。
当日の体調、気管切開の有無の確認は最重要となります。切開部分に注意し、目の粗いガーゼを使用します。髪が一本でも気道に入り込むと、呼吸困難に陥る危険があります。手足の位置確認も忘れないようにしましょう。ベッドの昇降時等に手足を挟むなどの事故を防ぐためです。
片付けの際は丁寧にタオルやクロスをはずし、ベッド及び周辺の髪の毛を徹底的に除去、最後に床もチェックします。
以上はベッドカットにおける注意点を一部まとめたものになりますが、理美容の知識だけでなく、医療・介護の基礎知識もあれば、お客様の安全を守りつつベッドカットを行うことが可能になります。
訪問理美容を長く続けていると、終末期のお客様を担当することもあります。
「最後にもう一度だけ、きれいに髪を整えたい」というご希望があります。「お気に入りだったあの髪型にしてほしい」というご要望もあります。ご本人やご家族の切実な思いを、大切に受け止めましょう。
終末期における美容は、単なる身だしなみを超えた深い精神的なケアとなります。体力が極度に低下している中での施術は時間との勝負です。最小限の動きで最大限の効果を引き出す技術が求められます。ハサミの音、シャンプーの温かいお湯、心地よい香り。人の手の温もりも、とても大切です。それらが病床のお客様に深い安らぎをもたらします。
厚生労働省「人生の最終段階における医療・介護 参考資料」(令和5年改正)でも、患者さま本人の意思を尊重することが重視されています。心身の苦痛を和らげることも大切な目標です。
「美容ケアは、その人らしい最期を迎えるための重要なサポート」なのだと認識されつつあります。
引用元:厚生労働省「人生の最終段階における医療・介護 参考資料」(令和5年)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001104699.pdf
「きれいにしていただいて、本当にありがとうございました。穏やかな顔になりました」。
そう涙ながらに感謝されることがあります。その時、私たちはこの仕事の重みと尊さを痛感します。技術を通じて、人生の最後の瞬間に寄り添えること。訪問理美容師という仕事における、究極のやりがいではないでしょうか。
まずは、無理に施術を続けることは避けてください。お客様が不安を感じている原因を探りましょう。一度道具を置き、穏やかに話しかけてみるなど、信頼関係を築くことを優先します。それでも難しい場合はその日の施術を中断します。同席しているスタッフやご家族に状況を伝えましょう。次回に持ち越すことも大切な判断です。「今日は無理をしない」という選択が、お客様の尊厳を守ることにつながります。
直ちに施術を中断してください。お客様の安全を確保することが最優先です。施設内であれば、すぐに介護・看護スタッフを呼びましょう。ご自宅の場合はご家族を呼んでください。状況によっては119番通報もためらわず行ってください。日頃から緊急時の連絡先を確認しておきましょう。施設の緊急対応フローも、事前に相談・把握しておくことが大切です。
技術と知識のアップデートを続けることが最も重要です。介護・医療分野での学びは常に変化しています。認知症ケア等、新しいアプローチを学ぶ姿勢も求められます。感染症対策の最新情報にも積極的に目を向けましょう。もちろん自身の体のケアも忘れずに行ってください。腰痛予防のためのストレッチを習慣にしましょう。そして現場でのすべての経験を学びとして積み重ねること。それら全てが、お客様に喜ばれることへと繋がっていくでしょう。
訪問理美容師としてステップアップする中で、学ぶべきことは着実に増えていきます。認知症への理解、多職種との連携、高度な施術技術。ターミナルケアへの向き合い方・・・これらは一朝一夕に身につくものではありません。
しかしその一つひとつの学びは、確実にお客様の笑顔とQOL向上に直結していきます。超高齢社会を迎えた日本において、訪問理美容師は単なる「便利なサービス」ではありません。社会インフラとして不可欠な存在になりつつあります。
私たちKamiBitoは、これからも皆様を全力でサポートしてまいります。あなたのその手で、一人でも多くの方に「美しくなる喜び」と「生きる希望」を届けていきましょう。

執筆:東岡 忍(ひがしおか しのぶ)/ KamiBito訪問理美容研修トレーナー
現場での豊富な訪問理美容経験を経て、現在プロを育てる研修トレーナーとして活動。
中学卒業後母の勧めで美容学校を目指し、15歳で京都の美容室に住み込みで勉強。介護施設や医療機関にも勤務。子育てと両立しながら23歳で美容師資格を取得。現在は福祉と美容の知識を活かして研修講師として活動。介護福祉士実務者研修や認知症介助士も取得し、現在もそのほか資格取得に挑戦中。研修で知識や介護現場でのノウハウをより多く伝えるため、日々学び続けている。
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